国連平和大使/動物行動学者 ジェーン・グドール博士
写真家、星野道夫との友情。
ジェーンは自身が希望を持つ理由を一冊の本にしたためた。その本“Reason for Hope”(邦訳『森の旅人』角川書店刊)を開くと、巻頭に、ジェーンの美しいポートレートがモノクロで収められている。その写真を撮ったのは、自然写真家の星野道夫だ。
星野は、ジェーンとともにゴンベを訪れたことがある。星野がヒグマに襲われて他界するほんの半年ほど前のことだ。ふたりの友情は短い間にしっかりと育まれ、ゴンベの森で少女のようにリラックスしチンパンジーとたわむれるジェーンを、星野道夫は彼らしい温かな視線でとらえて写真に残した。
星野はこの旅行を写真集にまとめ、その直後に帰らぬ人となる。ドキュメンタリー映画『地球交響曲』第3番に出演することが決まり、その撮影を間近に控えた日のことだった。
『地球交響曲』は、さまざまな分野で大きな仕事を成し遂げた人びとの生き方と、未来へのメッセージをつづったドキュメンタリーだ。監督の龍村仁はある日、偶然に“Reason for Hope”のポートレートを目にした。そこには、星野道夫の名前があった。「次の『地球交響曲』の出演者はジェーンだ」。龍村監督は何かに引き寄せられるように、ジェーンへ電話をかけていた。
『地球交響曲』第4番への出演を機に、日本ではジェーンを知る人が一挙に増えた。
ミュージシャンの坂本龍一は、「森から遣わされた、チンパンジーに選ばれし者」と人間離れしたジェーンの美しさに賛辞を送る。ジェーンの思いは、さらに強く、深く、日本へと伝わりつつある。
チンパンジーと、アフリカの人びとのために。
ジェーンは、毎年日本を訪れて講演を行う。チンパンジーの棲む森が人の活動によって失われていることを伝え、自然を守るためにはそこに住む人々の生活にも目を向けなくてはならないことを知らせ、「そのためには、あなたがたひとりひとりの力が必要なのです」と訴えている。
一年のうち300日は講演旅行に費やし、残りの日のほぼすべてを執筆活動にあてる。早ければ数日で次の国へ、そして数日後にはその次の国へと移動し続ける日々。常人ではこなしきれないハードスケジュールだ。あの華奢な体のどこにそれだけのエネルギーが秘められているのだろう。今年、ジェーンは72歳になるのだ。
講演会ではどんなに長い行列ができようとも、サインを待つ人々にはひとり残らずサインをし、言葉を交わす。「ジェーンさん、応援しています」「ありがとう、あなたも地球のために何かしてくださいね」。このほんの一言のやりとりが、講演会で出会った人びとの心を動かし、ジェーンに力を与える。
ジェーンは、きっと今この瞬間も、世界中を飛び回り続けている。人びとに、絶望的に見える未来にもたしかな「希望があること」を知らせるために。「ひとりひとりが、世界を変える力を持っているのです。どんなに自分のしていることが微力に思えても、10億もの人がすれば何かが変わります。それに気づいてください」と。

グドール博士の著作 “Reason for Hope”(邦訳 『森の旅人』 角川書店刊)

深い友情で結ばれた「地球交響曲」の龍村仁監督との再会(2005年11月)。

2005年11月アニマルプラネットのイベントで講演を行った。

会場に集まった500名の聴衆と握手をし言葉を交わすグドール博士。