養老孟司先生「ひとと動物のかかわり研究会 第2回サマーキャンプ」
子どもは、一匹一匹の虫が持つ実にささやかな違いや、一枚一枚の葉の細かな動きの差に気づく目を持っている。でもそれは、幼いころから自然に触れていないと育たない。「だから僕は、子どもと一緒に森へ行くんです」。――「ひとと動物のかかわり研究会」理事長の養老孟司先生が、小学生47人を連れて虫捕りに出かけた。
取材・文 江口絵理
自然が、子どもの「目」を育ててくれる。
強烈な太陽の光がぎらぎらと降り注ぐ。地面に人を焼きつけてしまうかのような日光に大人はひるむが、子どもたちはまるで気にする様子もない。だって今日は、虫好きで有名な養老先生と一緒に、虫捕りに出かける日なのだ。
福島県のムシテックワールドに集まった小学生たち。親のつきそい無しの2泊3日のサマーキャンプだ。3年生から6年生まで、虫が好きで好きでたまらない47人。昨日まで知らなかった者同士だけれど、お互いが仲良くなるのに時間はかからなかった。
まるでずっと前からの友達だったかのように、ふざけて突き飛ばしあったり、おしゃべりに花を咲かせたりしながら、子どもたちは山へ向かっていく。
養老先生と一緒に、虫の棲む山へ。
養老先生が子どもたちを山に連れて行く、というのは実は正しくない。養老先生はたいてい、子どもたちの集団の最後尾近くにいるからだ。あ、あの葉っぱにチョウが。あそこにバッタが。虫たちに目を留め、指差しているうちに、養老先生はどんどん後ろへと遅れていく。
「ついこの間も、別の場所で子どもたちと一緒に虫捕りに行ったんだけど、気づいたら僕だけひとり置いていかれちゃっててね。『先生、遅れてます』って怒られた」
ムシテックワールドを囲む森を、みんなで登る。すぐ脇の木をカマキリが登っていく。こちらが気づくと、カマキリもじっと息を凝らすように固まる。トノサマバッタに手をのばせば、ジャンプするというより飛ぶといったほうがいい軽やかさで手をすり抜けていく。
早くも見事なオニヤンマを捕まえた男の子が、虫カゴのなかを見せてくれた。息を呑むほど美しく澄んだ緑色の目を持つトンボ。体の大きさもほかのトンボとはあきらかに違う、トンボの王様だ。黒光りする一つ一つの節。絶妙なバランスで黄色い線が黒い体に縞を作る。
道の脇にある側溝のなかを一心に見つめている子たちがいる。「何がいるの?」と肩越しに覗くと、「ありんこ」と答えが戻ってきた。ありんこ……。アリを見ていて面白いのだろうか?
「友達と一緒に見るから、どんな虫を見ても楽しいんです。珍しい虫のところへ連れていって無理やり見せても、何も面白くないし、わからない。あまり面倒を見すぎると、子どもが自分から面白がる気持ちを失わせてしまう」

養老孟司先生



自然の中に放たれた子供たちは声をあげ、目を輝かせて昆虫を追い駆ける。すぐ側では枝に止まったトンボを捕まえようと養老先生が静かに網を構えている。
