ディスカバリー・モーメント discovery moment
養老孟司先生
Q1.ひらめいた瞬間について
学生のときからずーっといた、東京大学を辞めたときですね。
18歳のときからいたでしょ。57歳で辞めたから、40年近いね。辞めた次の日、世界が明るかった。こんな明るい陽を、見たことがなかった。
これは辞めてみないとわからないことだけど、東大にいると、無言のうちにいろんなプレッシャーをしょってるんです。それが全部下りた。その瞬間に、世界がぐわーっと変わった。
そのときは、ちくしょーっと思ったね。なんでかというと、女房の世界は初めからこういうふうに明るかったんだ、って思ったから。それが、大発見だった。
「発見」って言ったら、みんな、外のものを何か見つけることだと思っているけど、実はそうではなくて、発見とは、「自分が変わる」ことなんですよ。自分が変わった瞬間に、世界が変わる。
これ、いちばん安い世界の変え方なんですよ。ところが、バカはどうするかというと、「革命起こそう!」なんてダンゴになって相談して、爆弾投げたりするんだけど(笑)、そんなことする必要ない。自分が根本的に変わったら、世界はがらっと変わっちゃいます。今まで見えなかったものが見えてくるから。
昆虫だっておんなじです。いままで同じ種類だと思っていた昆虫のなかに、違う種類が混じってたってことに、ある日、はっと気づく。同じだと思っていたあの虫と、この虫が違うことに気づく。気づいた瞬間が、大発見ですよ。普通の人はそれを、「自分が、虫の違いを発見した」と思っちゃう。でも、そうじゃない。
「区別がつけられなかったいままでの自分」と、「区別がつけられるようになった自分」が違うんです。見える世界が変わったんです。
アルキメデスが風呂から飛び出したのも同じことです。つまり、アルキメデスの原理を発見する前のアルキメデスと、発見した後のアルキメデスは、目の良さが違う。いままでもお風呂に入ると体が軽くなるということはわかってたんだけど、どのくらい軽くなるかということがわかっていない。だから、いうなれば近眼状態。それが、アルキメデスの原理を発見した瞬間に、数字で表せることがわかるんです。つまり、ものすごくシャープに目のピントがあった。眼鏡をかけるというような人為的なことではなくて、極端な言い方をすると、発見とは、「自分が生まれ変わること」ですね。
Q2.過去に戻れたら会いたい人は?
いっぱいいますね。ほんとか嘘か実際のところを確かめたいのは、ソクラテスですね。どんなジジイなのかって気になるんです。プラトンが書いているソクラテスが本当なのかどうか。プラトンってのはものすごく文才のある人で、みごとなソクラテスの像を作っちゃったんですけど、たぶん嘘だろうと思う(笑)。飾ったんだろうね。
Q3.100年後の世界に行けたら?
生まれ変わりたいとは思わないけど、タイムマシンで行けるなら覗いてみたいね。きっと世界はこうなるだろうなと思っていることはたくさんあるから、僕の予測が当たってるかどうか、確かめたい。たとえば石油がなくなったあとの世界は、こういう風になるはずだ、ああなっているはずだとか。実際に100年後にそうなってるか、確かめたい。科学で実験したいというのと同じですよね。
世界の「変化」を知りたいんです。そして、人間がどのくらい未来の予測ができるかというのを知りたい。もちろん、虫の将来も知りたい。「変化」のなかには環境問題も入っていますから。
Q4.ディスカバリーの番組で印象に残っているものは?
絶対忘れられないのが、ギアナ高地の番組ですね。2000メートル以上の高さのテーブルランドで、それも、ゾウムシ捕ったりしてたんですよ。「コンチキショー、俺も行きてえ」なんて、思いましたね(笑)。
構成・文 江口絵理
