これまでに感じたことのない感覚

こんなに大きな氷を見ることも、触ることも初めて。上の階には、氷を削って何かを作っている人がいた。さっき、女の子がそれを見かけたときには、ただ四角い氷のなかをこりこりやっているだけだったのに、しばらくして見にきたら、ちいさな人が氷のなかに立っている!

氷に触ってみると、つるつる滑らか。「けずってみる?」と鑿を渡されて、女の子はそっと表面を削る。すうっ。すうっ。かんなで木を削るよりずっと柔らかく、鑿が気持ちよく氷の上をすべり、またたくまにシャーベット状の氷がたまった。その山に手を延ばす。「しゃりしゃりだね」。つかむ。「食べてもいい?」。口に入れる。きゅっと眉をひそめ「冷たい!」。お父さんの顔がほころぶ。

少し離れた部屋から、たくさんの風船から一気に空気が抜けて、部屋中を飛びまわる音が聞こえた。「芸大学生たちのインスタレーションの部屋」だ。こっちでは、何をやっているんだろう? 風船やバランスボールがあちこちに散らばっている。奥の部屋では男の子が、ぱん!と風船を割っている。室内で風船を割ったら普通はうるさいって怒られるけど、ここではいいみたいだ。断続的に、ぱん!という音が部屋の空気を震わせる。

カラフルな部屋に、色鮮やかな風船が舞う。東京藝術大学の学生たちの演出に、子どもたちは目を輝かせた。女の子がお母さんとふたりでサンドバッグの前に行くと、そこにいた女の人が、「支えておくから、蹴ってみる?」。でも考えてみたら、普段の生活で、ボール以外のものを思いっきり蹴るって、したことない。恐る恐る、足を延ばしてみる。

「じゃあ今度は、殴ってごらん」。殴るっていっても……。お母さんの陰に隠れるようにしていた女の子はとまどいながらもサンドバッグにこぶしをぶつける。たぶん、彼女にとって馴染みのない体の動き。もしかしたら初めての、自分のこぶしが何かに強く当たる感触。

クオリアと発見に満ちた一日

冷たい、ごつごつ、つるつる、しょっぱい、ぶらぶら、甘い、広い、うるさい、ふわふわ、狭い、ぽわんぽわん、明るい、さりさり、ちょきん、がさがさ、ピューン、こりこり、雨の匂い、不思議な音楽、皮の感触、聞きなれない音。五感がフルに活動し、頭はいやおうなしに、いつもとは違う動きかたをしている。

わからない、もどかしい、不思議、悔しい、わかった! 誇らしい、嬉しい、人に話したい、恥ずかしい、隠れたい、楽しい。子どもと大人の頭のなかにたくさんのスパークを起こして、「アハ!」と「クオリア」と「発見」に満ちた一日が、ゆっくりと暮れていく。

40人の親子は、この不思議な空間からぽつりぽつりと帰っていった。
「これ、二泊三日ぐらいでやりたいね」
はるか南の島からやってきたドクター茂木は、まだまだ帰りたくないご様子だ。

もっとAHA!体験をしてみたい方は、来春講談社から刊行予定の「アハ体験のススメ」をご覧下さい。

※「アハ!センテンス」の答え:「女の子はライオンの檻の前にいたから」

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